英文契約書は頭から読まない|最初に見る5か所と、そこで見る英語
本記事は英語学習を目的とした一般的な解説であり、個別の契約についての法的助言ではありません。実際の契約の検討にあたっては、弁護士等の専門家にご相談ください。
英文契約書を渡されて、1ページ目から順に読み始める。これが一番時間を溶かす読み方です。
30ページの契約書を頭から読めば、重要な条項にたどり着く前に集中力が切れます。しかも、読み終わったあとで「結局どこが問題なのか」がわからない。
実務では、先に見る場所が決まっています。この記事では、その順番と、そこで使われる英語を整理します。英語学習の観点から書いているので、条項の法的な当否ではなく「何が書いてあるかを読み取る」ことに焦点を当てます。
前提:契約書の英語は範囲が狭い
先に朗報です。契約書の英語は、語彙も構文もかなり限定的です。
小説や新聞記事と違って、書き手は曖昧さを避けようとします。同じ意味なら同じ語を使い、比喩も使いません。一度パターンを覚えれば、次からは読む速度が大きく上がります。
TOEICのリーディングより、むしろ読みやすいと感じる人もいるはずです。文は長いですが、構造は定型的だからです。
1. 定義条項(Definitions)
最初に開くのはここです。
定義条項では、その契約のなかで使われる用語の意味が決められています。日常的な意味とは違う定義が置かれていることがあるので、ここを飛ばすと全体を読み違えます。
読むときのポイントは3つです。
- 大文字で始まる語を探す。“Product”、“Services”、“Confidential Information” のように大文字始まりの語は、定義された用語であることを示します
- includes と means を区別する。“means” は定義そのもの、“includes” は例示にとどまります
- 定義の中の定義を追う。定義の文中にさらに定義語が出てくることがあります
全部を読む必要はありません。あとで出てきた定義語を、必要になった時点で引きに戻るという使い方で十分です。
2. 当事者の義務(誰が誰に対して何をするのか)
次に、この契約で誰が何をするのかを押さえます。
ここで一番怖いのは、義務の主体を取り違えることです。 「〜しなければならない」と読めていても、その主語が自社なのか相手方なのかを読み違えていれば、理解は正反対になります。「相手が通知してくれる」と思っていた条項が、実は自社の通知義務だった、というのは洒落になりません。
取り違えが起きる原因は、だいたい次の3つです。
定義語に置き換えられている
契約書では、当事者が実名ではなく定義語で書かれます。“Supplier”、“Licensee”、“the Receiving Party” のような語です。
自社がどちらなのかは、冒頭の当事者欄で一度決められるだけで、その後は出てきません。読んでいる途中で「Licensee はうちだったか、相手だったか」がわからなくなるのはよくあることです。
対策は単純で、読み始める前に自社側の定義語に印をつけてしまうことです。紙なら蛍光ペン、PDFなら検索でハイライトする。それだけで取り違えの大半は防げます。
受動態で主体が消えている
契約書の英語は受動態が多用されます。
- The Products shall be delivered by December 31.
- Notice shall be given to the other party.
どちらも「誰が」が書かれていません。文脈から補えることもありますが、補えると思い込むのが危険です。義務の主体が特定できない条項は、後から解釈が争われる余地を残します。読むときに気づいたら、そこは確認すべき箇所として印をつけておく。
能動態で書かれていれば、こうなります。
- The Seller shall deliver the Products by December 31.
同じ内容でも、主体が明示されているかどうかで読み取りやすさが変わります。
義務と権利が混ざっている
助動詞の使い分けが、義務なのか権利なのかを決めます。
- shall:義務。「〜しなければならない」
- may:権利・裁量。「〜することができる」
- shall not:禁止
- is not required to:義務がないだけで、禁止ではない
“may” を「〜するものとする」と読んでしまうと、相手の裁量を自社の期待に読み替えることになります。「相手は通知してくれるはずだ」と思っていたが、条文上は通知するかどうかが相手の裁量だった、という形です。
近年は shall を避けて will や must を使う契約も増えています。その契約の中で一貫していれば読み取れますが、混在している場合は書き手の意図を確認する必要があります。
読むときの手順
取り違えを防ぐには、条項ごとに次の3つを取り出すのが確実です。
- 主体:誰が
- 相手方:誰に対して
- 態様:義務か、権利か、禁止か
長い条項でも、この3つを書き出してしまえば構造が見えます。修飾句は後から読めばよく、先に主語と述語を取ることが最優先です。
自信がない箇所は、そのままにせず確認する。英文契約では、わかった気で進めることのコストが特に高くつきます。
3. 責任・保証に関する条項
金額に直結する部分です。英語としては、次のようなキーワードから探します。
- Indemnification(補償)
- Limitation of Liability(責任の制限)
- Warranty / Disclaimer(保証/保証の否認)
この付近では、全部大文字で書かれたブロックに出くわすことがあります。“AS IS”、“NO WARRANTIES OF ANY KIND” といった表記です。大文字は「目立たせる」ための書式で、重要な条項であることのサインとして読むと迷いません。
また、頻出する言い回しを押さえておくと速く読めます。
- to the extent permitted by applicable law(適用法が許す範囲で)
- in no event shall … be liable for(いかなる場合も〜は責任を負わない)
- except as otherwise provided herein(本契約に別段の定めがある場合を除き)
4. 契約期間と終了(Term and Termination)
いつ始まり、いつ終わり、どうやって抜けられるのかを見ます。
- Term:契約期間
- Termination for convenience:理由を要しない解除
- Termination for cause:違反等を理由とする解除
- Survival:契約終了後も効力が残る条項
読み取りのコツは、期間の数え方に注目することです。
- upon 30 days’ prior written notice(30日前の書面通知により)
- effective as of the date(〜の日付をもって効力を生じる)
- shall automatically renew unless either party gives notice(いずれかの当事者が通知しない限り自動更新される)
3つ目は特に見落とされがちです。自動更新条項があると、何もしないことが継続の意思表示になります。
5. 準拠法と紛争解決(Governing Law / Dispute Resolution)
最後に、どの国の法律で、どこで争うのかを確認します。
- governed by and construed in accordance with the laws of …(〜法に準拠し、同法に従って解釈される)
- exclusive jurisdiction(専属管轄)
- arbitration(仲裁)
位置としては契約書の末尾にあることが多く、頭から読んでいると最後までたどり着きません。先に見るべき条項が後ろにあるというのは、頭から読む方式が向かない理由のひとつです。
読む順番のまとめ
実務では、おおむね次の順に見ます。
- 定義条項(用語の意味を確認)
- 義務の条項(何をする契約か)
- 責任・保証(金額に効く部分)
- 期間と終了(抜けられるか)
- 準拠法と紛争解決(どこで争うか)
契約書の全体像は、この5か所でだいたいつかめます。そのあとで必要な部分を読み込めば十分です。
英語学習として何を積むか
英文契約を読めるようになるために、新しい単語帳を始める必要はありません。積むべきは次の3つです。
- 定型表現のストック。上に挙げたような言い回しは繰り返し出てきます
- 助動詞の読み分け。shall と may を機械的に判別できるようにする
- 長文の構造把握。主語と述語を先に見つけ、修飾句は後回しにする
3つ目が効きます。契約書の文が長いのは、修飾句が多いからで、構造そのものは単純なことが多いからです。「誰が、何を、どうする」をまず取り出せば、残りは条件の限定にすぎません。
実際の訓練としては、手元にある英文契約のひな形を1本選び、上の5か所だけを繰り返し読むのが早いです。新しい契約書に当たるより、同じものを5回読むほうが定型表現は定着します。
まとめ
- 英文契約書は頭から読まない。先に見る場所が決まっている
- 定義 → 義務 → 責任 → 期間と終了 → 準拠法、の順で見る
- shall と may の読み分けが、義務と権利を分ける
- 全部大文字のブロックは、重要条項のサイン
- 定型表現のストックが、読む速度を決める
英文契約書の英語は範囲が狭く、慣れの効果が非常に大きい領域です。そのぶん、正しい読み方を知っているかどうかで差がつきます。
なお、実際の契約内容の評価は法律の問題であり、本記事の射程外です。判断が必要な場面では専門家にご相談ください。
契約書を読む力とは別に、英語で交渉したり説明したりする力が必要になる場面もあります。仕事で使う英語に絞って学ぶ選択肢は、Bizmates Coachingの記事で整理しています。